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こだわりを聞かれて、@yohaku_to_ki さんが挙げたのは一行だけでした。「余白を作り自分好みにアレンジできるようにしていること」。34坪3LDKの和モダン住宅ですが、この家の主題は設備でも間取りでもなく、あえて埋めなかった部分にあります。
家づくりの打ち合わせは、基本的に「足す」作業の連続です。収納を足す、設備を足す、造作を足す。カタログもSNSも、足したものを見せる媒体なので、当然そうなります。
ところがこの家は、アカウント名からして「余白と木」。こだわりも「余白を作ること」です。作り込みを最小限にして、暮らしながら自分で調整できる状態を残す——完成度を上げる方向とは逆の設計思想です。
ただし、余白は「何もしないこと」ではありません。何もしなければ、ただの使いにくい空きスペースになります。あとから足せるように、下地・配線・寸法だけ整えておくという準備が要る。この家は中庭、回遊動線、吹き抜け、独立型キッチンという選択で、その余白を成立させています。いえスタ編集部はこの家を「完成させないことを設計した家」と読みました。
施主のこだわりポイント
余白を作り自分好みにアレンジできるようにしていること
— @yohaku_to_ki さんの投稿より、編集部が引用
編集部メモ:この家を一言で言うと
「埋めない場所を、意図してつくった家」。
34坪の3LDKに2人暮らし。面積には余裕がありますが、その余裕を部屋や収納で埋めていません。中庭という屋外の余白、吹き抜けという上方向の余白、そして回遊動線という「通り道が2本ある」余白。いずれも「使い道が固定されていない場所」です。
テイストの選択も同じ方向を向いています。グレージュを基調とした和モダン、いわゆるジャパンディは、背景として静かに引く色調です。主張の強い色で仕上げてしまうと、あとから何を置いても喧嘩します。色を抑えるという判断は、将来の自由度を残すための実務的な選択でもあります。
キッチンを独立型にしている点も見逃せません。オープンなアイランドキッチンが主流のなかで、あえて閉じる。見せる前提をやめると、生活の道具を自由に置けるようになります。これも余白の一種です。
編集部が注目した3つのポイント
1. 中庭は「屋外の余白」として、いちばん潰れにくい
家の中の余白は、住み始めるとすぐ埋まります。空けておいたはずの壁際に棚が来て、広く取ったホールに物が置かれる。屋内の余白は、生活の圧力に対してとても弱いのです。
その点、中庭は潰れません。屋根がないので物置き場にできず、四方を建物に囲まれているので用途が固定されない。季節ごとに使い方を変えられる、いちばん寿命の長い余白です。植物を並べる、椅子を出す、ただ光を落とす場所として使う。何もしなくても成立します。
中庭にはもうひとつ実用の面があります。外から見えない外部空間だという点です。53坪の土地に34坪の家を建てると、庭として使える屋外は限られます。しかも道路や隣家からの視線があり、カーテンを開けにくい。中庭なら、視線を気にせず窓を開けられます。
採用時の注意点は排水と防水です。四方を囲むぶん、雨水の逃げ道は排水口だけになります。落ち葉で詰まると室内へ逆流するため、排水口の数と点検のしやすさ、そして立ち上がりの防水処理を図面で確認してください。加えて、中庭のぶん外壁面積が増えるので、断熱とコストにも影響します。
2. 回遊動線+吹き抜けで、34坪を「めぐる家」にしている
回遊動線と吹き抜けを両方持つ家は、視線が水平にも垂直にも抜けます。34坪という数字は決して大きくありませんが、行き止まりがなく、天井が抜けている家は、実面積より広く感じられます。
中庭がある場合、回遊動線との相性はさらに良くなります。中庭を中心に部屋がぐるりと並ぶ配置になるため、回りながら常に外光が視界に入る。廊下が単なる移動路ではなく、光と景色のある場所になります。
ただし、回遊動線は「通路を2本持つ」ということでもあり、面積効率としてはマイナスです。34坪でこれを成立させるには、通路そのものに用途を持たせる必要があります。片側をファミリークローゼットやパントリーの通り抜けにする、洗面への動線に重ねる、といった処理です。
この家がウォークインクローゼット・シューズクローク・ファミリークローゼットの3種類を持ちながら34坪に収まっているのは、収納が通路を兼ねている可能性が高い。同じことをしたい人は、プランの段階で「通り抜けられる収納」として設計してもらうと面積が浮きます。
3. 独立型キッチンという、流行と逆の選択
いま新築で選ばれるキッチンの主流は、対面またはアイランドのオープン型です。リビングとつながり、家族の様子が見える。SNS映えもする。そのなかで、この家はセパレート(独立型)を選んでいます。
これは「見せない」ことを積極的に選んだ判断です。オープンキッチンは、常に片付いていることが前提になります。調理家電、調味料、洗い物——すべてがリビングから見える。結果として、買う家電の見た目まで制約を受けます。独立型にすると、この制約が丸ごと消えます。
「余白を作り自分好みにアレンジできるように」という方針と、独立型キッチンは矛盾しません。むしろ一貫しています。見られる前提をやめることが、道具を自由に選べる余白になるからです。
デメリットもあります。調理中に家族と会話しにくい、配膳の動線が長くなる、閉塞感が出やすい。この家はパントリーと家事ラク動線を併せて持っているので、配膳と収納の効率は別途確保していると読めます。独立型を選ぶなら、キッチンからダイニングまでの距離と、採光をどう取るかを必ず詰めてください。
この家から学べる、「余白」を機能させる3つの判断軸
判断軸1:余白は「空ける」のではなく「準備しておく」
何も決めずに空けた場所は、余白ではなくただの空きスペースです。数か月で物が置かれ、二度と戻りません。機能する余白には、あとから足せる準備が要ります。
具体的には、壁の下地(棚やテレビを後付けできるように合板を入れておく)、コンセントと配線(模様替えしても足りるように多めに)、そして寸法(既製の家具が収まる幅を確保)。この3つを入れておくだけで、「空きスペース」は「余白」に変わります。新築時なら数万円で済み、あとから壁を開けるより圧倒的に安い工事です。
判断軸2:色は「背景」に徹すると、あとから何でも置ける
グレージュや生成りのような色は、それ自体が主役になりません。だからこそ、あとから置く家具・植物・器がそのまま主役になります。10年後に好みが変わっても、背景が静かなら家具を替えるだけで印象を更新できます。
逆に、壁紙にアクセントカラーを入れたり、床を濃い色で決めたりすると、その色に合うものしか置けなくなります。個性は出ますが、選択肢は狭まる。どちらが良いかではなく、変える前提かどうかで選ぶのが正しい判断の仕方です。
判断軸3:造作は「動かせないもの」だけに絞る
造作家具は魅力的ですが、動かせません。造作テレビボード、造作ベンチ、造作カウンター——どれも便利ですが、レイアウト変更の自由を奪います。
おすすめは、造作を「配管や下地が絡む場所」に限定することです。洗面台、キッチン背面、階段まわり。この家が造作洗面台を採用しつつ、リビングに造作を並べていないのは(少なくとも投稿からはそう読めます)、この線引きができているからでしょう。置き家具で済むものは、置き家具で。余白を残す家づくりの、いちばん実務的なルールです。
延床34坪・土地53坪という条件を読む
34坪の3LDKに、土地53坪。地方都市の分譲地としては標準的なサイズ感です。この条件で中庭を成立させている点が、この家の技術的なポイントです。
土地53坪で中庭を作るには、建物の形が鍵になる
建ぺい率60%なら建築面積は約31坪まで。2階建てで延床34坪なら、1階を20坪前後に抑える必要があります。そこから中庭のぶんを引くので、1階の実質的な居室面積は16〜18坪程度という計算です。
これを成立させるには、建物をコの字またはL字にして中庭を囲む形が定石です。四方を完全に囲むロの字は、この規模では採光と面積の両方で厳しくなります。「中庭が欲しい」と伝えるときは、囲い方まで含めて相談すると、現実的な案が早く出ます。
34坪3LDKは、2人暮らしなら余白を持てるサイズ
3LDKの標準構成に必要なのは28〜30坪ほど。34坪なら4〜6坪の余裕があります。この家はそこを中庭と回遊動線、そして3種類の収納に配分しています。
4人家族で同じことをしようとすると、居室を優先せざるを得ず、余白は消えます。「余白のある家」は、人数に対して面積が足りている場合にだけ成立する——これは正直に押さえておくべき前提です。
中庭は外壁とコストを増やす
中庭を作ると建物の外周が伸び、外壁面積と開口部が増えます。コストも上がり、断熱の面でも不利になります。太陽光発電を載せているこの家がその負担をどう相殺しているかは投稿からは分かりませんが、中庭を検討するなら、外壁面積の増加ぶんを見積もりで確認してください。
それでも中庭が選ばれるのは、視線を気にせず窓を開けられる価値が大きいからです。コストと快適さのトレードオフを、数字を見たうえで判断する。それができれば、後悔にはなりません。
2人暮らしが、この家の設計を再現するには
2人で34坪3LDK。この余裕が「余白」を可能にしています。ただし、余白は放っておくと消えます。維持するための具体的な方法を挙げます。
空き部屋には「余白」以外の名前をつけない
2人暮らしで3LDKなら、寝室以外に2部屋残ります。ここで「客間」「書斎」と決めてしまうと、その用途の家具が入り、固定されます。あえて名前をつけず、置く家具も可動式にしておくと、数年ごとに用途を変えられます。
ただし前項のとおり、下地とコンセントだけは先に入れておいてください。名前は決めない、準備はしておく。この2つはセットです。
収納3種類を「置き場所の役割」で使い分ける
ウォークインクローゼット、シューズクローク、ファミリークローゼット。似た機能が3つありますが、役割を分けると余白が守れます。目安はシューズクローク=外から持ち込むもの、ファミリークローゼット=毎日使う衣類、ウォークインクローゼット=季節もの。
この線引きをしておかないと、いちばん近い収納にすべてが集まり、他の2つが死にます。入居前に家族でルールを決めるだけで、収納の稼働率は大きく変わります。
独立型キッチンは「配膳距離」で満足度が決まる
キッチンを閉じる選択をするなら、ダイニングまでの距離が短いことが条件になります。3歩以内が理想、5歩を超えると配膳がストレスになります。ハッチや配膳カウンターを設ける方法もありますが、開口を作りすぎると独立型にした意味が薄れます。
採光も要チェックです。独立型キッチンは窓が取りにくく、日中でも照明が要る部屋になりがちです。この家のように中庭があるなら、中庭側に窓を取れないかを相談してみてください。視線を気にせず開けられる窓は、キッチンにとって理想的です。
トランスデザインで建てるときに押さえたいこと
トランスデザインは設計に力点を置く住宅会社です。中庭・回遊動線・独立型キッチンといったこの家の構成は、規格化された商品住宅では出てきにくい組み合わせで、設計提案を求める人に向いた依頼先と言えます。確認したい点を挙げます。
中庭のある家の実績と、排水・防水の考え方を聞く
中庭は雨仕舞いが命です。排水口の数と位置、詰まったときの逃げ道、立ち上がりの防水の納まり——この3点を図面で説明してもらってください。実績のある会社なら、聞く前に説明が出てきます。加えて、落ち葉の掃除がしやすい設計になっているかも確認しておくと、10年後が違います。
「余白」を残す設計に、どこまで付き合ってくれるか
造作を減らして置き家具で対応するという方針は、会社にとっては受注額が下がる方向です。それでも「ここは造らないほうがいい」と言ってくれるかは、信頼できる設計者かどうかの一つの目安になります。打ち合わせの初期に「余白を残したい」と伝えて、反応を見てください。
下地・配線の「先行仕込み」を図面に落としてもらう
あとから棚や照明を足せるように、壁下地の位置、コンセントの数と高さ、将来の照明用の配線を、着工前に図面へ落としてもらいます。これは口頭の約束では抜けやすい項目なので、必ず図面に残してください。工事が始まってからでは間に合いません。
- 中庭のある家の施工実績と、排水・防水の納まり
- 中庭を含めた場合の外壁面積の増加とコスト差
- 回遊動線を通り抜け収納と兼ねられるか
- 独立型キッチンの配膳距離と採光の確保
- 壁下地・コンセント・将来配線の先行仕込みを図面化
- 太陽光の想定発電量と、屋根形状との整合
- 置き家具前提のプランに対応してくれるか
- 引き渡し後に施主自身で手を加える範囲(保証への影響)
「余白を残す家」は、図面上では物足りなく見えます。だからこそ、足さない提案ができる会社かどうかを最初に見極めることが重要になります。上のチェックリストは、その判断材料としても使えます。
中国エリアで中庭のある家を検討する人へ|編集部メモ
中国エリアは、瀬戸内側と山陰側で気候がかなり異なります。瀬戸内側は日照時間が長く降水量が少ないため、中庭と太陽光発電のどちらにも有利な条件です。一方の山陰側は日照が少なく積雪もあるため、同じ「中国エリア」でも中庭の設計条件は変わります。土地が決まっているなら、その地点の日照時間と降雪量を建築会社に確認してもらうのが確実です。
共通して押さえたいのは、湿気と風の抜けです。中庭は四方を囲むぶん、風が通らないと湿気がこもります。中庭に面する開口を対角に配置して風の通り道をつくるだけで、体感は大きく変わります。また、地方都市では土地に余裕があるぶん、南側の庭で足りるケースも多い。中庭が本当に必要かどうかは、隣家との距離と視線を現地で確認したうえで判断してください。視線が気にならない敷地なら、通常の庭のほうがコストも維持も楽です。
よくある質問
Q. 「余白」を残すと、住み始めてから物足りなくなりませんか?
下地と配線の準備がしてあれば、物足りなさはあとから足すことで解消できます。逆に、造り込んでしまった家は減らすことができません。足すのは簡単、減らすのは高額——この非対称性があるので、迷ったら足さないほうが安全です。ただし、準備なしに空けただけだと、後付けのたびに壁を開ける工事が必要になります。準備は必ずしてください。
Q. 中庭のメンテナンスは大変ですか?
落ち葉と排水口の掃除が中心で、年に数回で十分です。問題になるのは排水口が詰まったときで、逃げ道がないと室内へ水が回ります。設計段階で排水口を複数設ける、点検しやすい位置にする、立ち上がりの防水を高めに取る——この3点を押さえておけば、日常の手間は庭と大差ありません。
Q. 独立型キッチンは後悔しませんか?
後悔の有無は、配膳距離と採光で決まります。ダイニングまで3歩以内、そして窓か中庭からの光が入ること。この2つを満たせば、独立型の閉塞感はほとんど問題になりません。逆に、家族と会話しながら調理したい人には向きません。「見せたくない」ことのメリットと、「つながりたい」ニーズのどちらが強いかで判断してください。
Q. グレージュの和モダン(ジャパンディ)は飽きませんか?
飽きにくいテイストです。色そのものが主張しないため、置くものを替えるだけで印象が変わります。むしろ注意すべきは、単調に見えないよう素材の質感で差をつけることです。同じグレージュでも、塗り壁・木・布・タイルで表情が変わります。色数を増やさず、質感で変化をつけるのが定石です。
Q. 同じトランスデザインの事例をもっと見るには?
いえスタでは施工会社別に事例を絞り込めます。トランスデザインの家アカ一覧から、間取り・坪数・テイスト別に比較できます。設計提案型の会社は施主ごとに仕上がりが大きく違うので、複数見比べると自分の好みが明確になります。
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編集後記
アカウント名が「余白と木」で、こだわりも「余白を作ること」。@yohaku_to_ki さんの家は、名前と中身が一致しています。
家づくりの取材をしていると、こだわりの欄が数百字になる方も少なくありません。それが悪いわけではないのですが、一行で言い切れる人の家は、判断が速く、結果として仕上がりに迷いがないという傾向は確かにあります。この家も、中庭・回遊動線・独立型キッチンという一見バラバラな選択が、すべて「余白」という一語で説明できてしまいます。
そして、余白を残すというのは案外勇気の要る選択です。打ち合わせでは常に「ここはどうしますか」と聞かれ、決めないことにも理由が要ります。「いまは決めません」と言えるかどうか。10年住んだあとに効いてくるのは、たぶんその一言のほうです。
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